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コラム

ジョブ型雇用はWithコロナの時代の正しい選択なのか?

 

プロセスの見える化を行わずにジョブ型雇用を導入しても失敗する

 

コロナ禍の今、日立、富士通、資生堂などの大企業が「ジョブ型雇用」へ転換するという記事が出て、にわかに雇用制度を変える方向に向けようとする議論が喧しいようです。

しかし、日本の人事評価のこれまでの歴史と変遷から考えると、正直なところ違和感を覚えます。放っておくとまたおかしな方向に行ってしまい、元気を失っている日本経済にさらに悪影響を与えてしまうのではないかと心配になります。

 

ということで、経団連とメディアがリードしようとする流れに水を差すようですが、あえて次のような鐘を鳴らしておくことにします。「本格的な業務プロセスの見える化に取り組まないまま、ジョブ型雇用を導入しようとしてもうまくいかないだろう。やるなら、プロセスの見える化がまず先だ」と。

 

アメリカの真似を繰り返しても進歩はない

 

欧米(実質はアメリカ)から横文字のやり方を輸入して真似しようとしても、そもそも国民性や経営風土が違うのでうまくいかないことは、人事関連だけでなく経営マネジメント領域でもすでに証明されています。

既に過去失敗している「職務制度」を英語に変えて「ジョブ型」と言い換えてごまかそうとしても、現場で実際に運用できるくらい具体化された職務定義書(ジョブディスクリプション 以下“職務定義書”)にまとめられないかぎり、失敗の可能性は高いのです。相変わらず成果とは名ばかりの結果の数字ばかりを追い求めてしまい、理不尽な結果主義を強調する嫌な景色が透けて見えるようです。

 

実は職務で個人のやることを抽象的に示しても限界があります。従来の日本型経営の強さである「チームワークによる分業型」  ――――  チームで取り組む役割や分業してやるべきこと(担当プロセス)を因数分解し、標準化・見える化して、協力しながら仕事を進めるやり方     ――――  の方が日本には合うことは皆さんも直感的・経験的にわかっているはずです

 

ジョブ型雇用を導入する本当の目的は何か?

 

コロナウィルスの影響によるテレワーク定着対応を表向きの理由にしてはいますが、ジョブ型雇用を導入する“裏の目的”が、「人件費コントロールやリストラをやりやすくする」という不健全なものであれば、社員は経営側の本音を敏感にかぎ取ります。かつての成果主義がうまくいかなかった理由のひとつがこれでした。

 

Withコロナの時代のテレワークに対応するための“前向きの目的”を掲げた上で、成果とプロセスを明確にし、結果を担保する職務定義書に基づく時代に合った人事評価制度に進化させるのでなければ、過去の失敗の繰り返しになるのは残念ながら目に見えています

人事賃金制度の変遷

 

「言うは易し」で私自身もなかなか実行できていませんが、歴史に学ばなければならないので、人事賃金制度の変遷を(図1)にまとめて振り返ってみましょう。

 

(図1)人事賃金制度の変遷

img src=”jinjitinginseidonohensen202007” alt=” 人事賃金制度の変遷 年功序列/成果主義からプロセス主義へ 職能資格制度/職務役職制度から見える化&プロセス評価へ”/

 

功主義のベースとなっていた「職能資格制度」から、バブル崩壊以降成果主義に移行する段階で「職務・役割等級制度」に変わりましたが、職務定義書が職務ごとに数行くらいの抽象的な定義しかなされないケースが多くうまくいきませんでした。

 

そのあたりを調整するため、職務内容を成績優秀者の行動特性/コンピテンシーとして再整理しようという試みも行われ、行動やプロセスという言葉も使われるようになりましたが、抽象的で曖昧な表現は相変わらずで、何か変わったのか専門家にもよくわからずあまり使い物にはなりませんでした。

 

 いずれも職務定義書があくまでも人事評価目的の中途半端なものであり、現場で使える代物ではありませんでした。人事評価は本来は「人財育成を通して業績アップに貢献するもの」でなければなりませんが、この大切な視点が欠けているケースが多いのです。現場を知らない人事担当や外部コンサルが作成してしまい、実際の現場で使える実用レベルまで落とし込むことができなかったということが、問題の根底にあることに気づいている人がどれくらいいるでしょうか。

 

職務制度が以前失敗した本質は何か?

 

この点をさらに深掘りします。過去の失敗の根源は、職務・役割ごとに求められる内容を、数行程度の抽象的な文章でしか表現できなかったことです。そのサンプルを(図2)に示します。

 

(図2)抽象的な職務定義の悪い例

img src=”shokumuteiginowaruirei202007” alt=”抽象的な職務役割定義の悪い例”/

 

各役職や役割ごとに求められる内容が数行程度の文章でまとめられていますが、主観でいかようにでも解釈できる内容です。これでは公正・客観的な人事評価に使える内容とは言い難い。

このサンプルは営業職を対象にしたものですが、業界・業種を問わずだいたい同じようなものです。これまでも職務定義書を作成している会社もありましたが、このレベルでは実態はそれ以前の職能制度と何も変わらず、現場は「これでどうやって評価すればよいのか?」と戸惑うだけでした。

 

Withコロナの時代に人事評価制度も変革する

 

では、どうやってWithコロナの時代のテレワークなどに対応する新たな人事評価制度を構築すればよいのでしょうか?

まず、組織が社員に求める成果を明確にすること。ここが曖昧なままでは、雇用制度も人事評価もあったものでありません。次に、成果を担保するプロセスを標準化・見える化。そして、成果を出すためのプロセスへの取組を、SFA/CRMなどのICTシステムで報告・共有 ~ 見える化する。さらに、成果だけでなく、結果に至るまでの途中のプロセスも成果の一部として評価するのです。

 

With/Postコロナの時代は、目に見える結果としての成果だけでなく、本気で成果に至る途中のプロセスを見える化して評価する時代に入ったと言えます!

 

また経営的には、Withコロナの対応で従来のやり方を見直すことがMUSTの今、日本的な経営の良さを見直し、短期的な結果を追い求める「株主至上主義」から、顧客・社員・地域社会・株主といったすべのステークホルダーに価値を生み出すことを目指す「ステークホルダー主義」への転換も求められています。

 

制度だけ変えても転職市場もジョブ型に変わらなければ意味がない

 

そもそも大手企業だけがジョブ型雇用を導入しても、労働移動市場、つまりそれに見合う新卒・転職しやすい市場が整っていなければ、出口のない絵に描いた餅にすぎません。

また、閉じた一つの大企業内で通用する職務スキルではなく、どの会社に行っても通用する汎用性の高いスキルを職務定義書に盛り込まなければなりません。 

さらに、これまでは新人を会社の独自のカラーに染め上げることを、社員教育の基本としてきましたが、リクルートと教育の根本も変えなければなりません。

ちなみに、欧米では日本的な新卒採用という概念はなく、職務に見合う能力を自分で身につけてからでないと採用されないことも知られていますが、これを現在の大学などの教育機関に早急に求めても現実的ではないのは自明です。

 

このように、ジョブ型雇用が前提とする転職によるキャリアアップの見方からも、かつて失敗した「職務主義」や「成果主義」の本質はそのままで、言葉だけ「ジョブ型」に変え、コロナ禍のどさくさに紛れて大企業の都合で流行らせようとしてもうまくいくわけがないのです。

 

<見える化 + プロセスマネジメントによる人財育成+ ICTツール + プロセス評価の4点セット>が解決の処方箋

 

Withコロナの時代においては、ジョブ型雇用ではなく、“プロセス見える化とプロセス評価をセットにして掛け合わせたプロセス主義®”が解決の処方箋 = 成功の鍵となります。

その重要なポイントを4つにまとめましたので、(図3Withコロナにおけるプロセス主義®の4点セットも見ながら参考にしてもらえれば幸いです:

①しっかりした「プロセス標準化・見える化」による成果と職務の明確化

②職務定義書に定めた標準プロセスに基づく「プロセスマネジメント」

③日々やることを見える化するスケジューラーや日報などの機能を備えた「ICTツール(SFA/CRMなど)」の徹底再活用 ~ 刷新・導入

④社員のがんばり = きちんと会社が定めた標準プロセスに取り組んでいるのであれば、その努力を評価する「プロセス評価」の導入

 

(図3)Withコロナにおけるプロセス主義®の4点セット

img src=”mierukano4tenset202007” alt=” 見える化 + プロセスマネジメントによる人財育成 + ICTツール + プロセス評価 の4点セット”/

 

読者の方はSFAなどのICTツールの導入や、業務プロセスの標準化・見える化、プロセスマネジメントに挑んだものの、過去うまくいかなかった経験をしている人も多いのではないかと思います。

とはいえ、新型コロナウィルスの影響で、ビジネス&ライフスタイルのパラダイムシフトがすでに始まっている今、いやでも正対せざるをえないのが現実です。もはや、プロセス見える化に取り組まないという選択肢は考えられません。ICTツールを活用しないという選択肢もありません。SFA/CRMがこれまでうまく活用できていなくても、覚悟を決めて再活用し使い倒す覚悟で臨まなければなりません。

 

ジョブ型より見える化が先

                         

こういう悪いパターンに陥らないようにジョブ型雇用を叫ぶ前に、プロセス“見える化”マネジメントの本格導入が先です。

その日だけでなく1週間先、できれば2週間先から逆算して、やるべきことを具体的なプロセスを使ってスケジューラーで示す。SFA/電子日報/ビジネスチャットなどのICTツールで、きちんとプロセスごとに実際何をやったかを、ルールを決めて23行で簡潔に報告する。任されている仕事の進捗プロセスを上司と部下で共有することを、コロナ禍なりのやり方で習慣づけるのが、お互いの信頼関係を守るための大前提であり、試行錯誤をしながら無理のない範囲で徹底しなければなりません。

 

人を信用しない嫌がる行動管理をやってしまうのは、普段からプロセスの見える化を行わずに結果だけで管理し、プロセスマネジメントも行っていないことの裏返しです。

報告の頻度を上げて細かく行動管理をしようとしても、上司と部下の手間と疲弊感が増えるだけで、新型コロナの影響による業績悪化を止める効果は期待できません。本質的な課題にメスを入れなければ何も変わらないのです。

 

わかりやすくいえば、テレワークという新しい働き方であっても、プロセスマネジメントがしっかりできるようになれば何も恐れることはありません。

嫌がられる行動管理をするのではなく、開き直って「やることさえきっちりやってもらえれば、多少さぼってもらっても構わない。息抜きもたまには必要だろう。祝祭日で密にならないように、比較的すいているウィークデイでプライベートなことをやってもらってもよい。」というくらいに、基本的な考え方を変えることです。

新型コロナウィルスの影響で、パラダイムシフトからは逃げられない時代ですが、古い凝り固まった管理手法を見直すよい絶好のチャンスでもあるのです。

 

最後に、図1および図3で今後の人事マネジメントのひとつのトレンドを、「プロセス主義®」として示しましたが、難しい点があるとすれば、「プロセス見える化のノウハウ」が必要だということに触れておかなければなりません。

With/Postコロナの時代に変化対応するために、本格的なプロセス標準化・見える化やプロセス評価をどうすればよいか悩んでいる、コンサルティングも検討してみたいという方は こちら をご覧ください。

 

今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

ジョブ型雇用について否定的に書いてしまいましたが、別な考え方や異論反論もあると思います。そういったご意見も大歓迎ですので、よろしければコメントをお寄せいただければと思います。

⇨ コラムへのご意見やご感想は info@flecrea.com 

 

()フリクレア 代表取締役

 

山田和裕

 


(2020年07月27日)

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