人はなぜ同じミスを繰り返すのか?
<このコラムのAI要約>
このコラムは、人が同じミスを繰り返す原因と、その連鎖を断ち切るための策を論じています。7つの心理学・脳科学的な要素の連鎖が正しい自己分析を妨げるとし、「ミスを繰り返す悪循環」を詳細に分析しています。精神論に頼るのではなく、「TRIPループ」という独自のフレームワークを通じて、作業動線にメモを組み込むなどの仕組み化による改善を提唱しているのが特徴です。重要なのは「意志ではなく仕組み」であることを強調し、ミスを言語化して行動変革まで落とし込むことを推奨しています。
<コラム本文>
メモを取っても見ることを忘れてしまう
同じミスを繰り返す人がどの組織にもいます。やり方を教え、本人の自発性を大切にしながらやらせてみます。多少のミスには目をつぶり、大事な点はメモを取るようすすめます。
反応はさまざまです。「反省しています。次は気をつけます」と素直に謝るタイプもいれば、ふてくされて逆切れするタイプもいる。しかし、何度言っても同じミスを繰り返す・・・?
本人に気づかせようと理由を尋ねたり、改善案を自分で言わせてみたり、本に書いてあるような方法は一通り試すのですが効果はありません。間違えないようメモを書かせても、なぜかそのメモ自体を見ない? 理由を尋ねると「メモを見るのを忘れました」・・・ 開いた口がふさがりません。
最初の頃は熱心に教えます。しかし、これを繰り返すうちに、教える側も疲れて諦め、何も言わなくなっていく・・・
この話をすると「うちの会社にもいるよ」という反応が返ってくるのですが、愚痴レベルで終わってしまい、根本的な解決まではなかなかたどり着けないでいました。
1回目は成長の一歩、2回目以降は?
1度や2度のミスは誰にでもあります。やり方がわからない最初は、失敗するのが普通です。それを否定するつもりはありません。しかし、3度目となると・・・ 学びや改善の努力をせず同じ失敗を重ねるのは、成長の機会を逃すのでもったいないと感じます。
同じ過ちを何度も繰り返す人を「バカだ」と突き放す人もいます。しかし、私はそうは思いません。人は誰でも間違えます。初めて挑戦する人ほど失敗するのが普通です。問題なのは、同じ間違いを繰り返しながらやり方を変えない人です。
本当に問うべきなのは、「なぜまた間違えたのか」ではありません。「前回の間違いから何を変えたのか」ということです。何も変わっていないのであれば、同じ結果が起きるのは当然です。失敗を経験しただけでは人は成長しません。経験を振り返り、言葉にし、行動を変え、ミスを防ぐ仕組みを工夫した時、初めて失敗は学びになります。
しかし、これは本人だけの問題なのでしょうか。本人も真剣に悩んでいるように見えます。同じミスを繰り返すのは、単なる記憶力の問題ではないのかもしれません。原因を誤って理解している。あるいは、本人の注意力だけでは防げないもっと根深い理由がある。そう考えると、次に見えてくるのは「意志」ではなく「仕組み」の話です。
同じミスを繰り返さない仕組みづくり
そこで有効なのが、「同じミスを繰り返さないやり方を整理して、正のスパイラルをつくる」ことです。「気をつける」という精神論から離れ、同じミスを繰り返さない仕組みを設計することです。
今回はこの仮説をAIと繰り返し対話しながら磨き上げました。例えば、実務的な指示を受けてミスした時に例えると、次のようなやり方が考えられます。
1.どこを間違えたのかを確認2.間違えた原因を特定3.正しいやり方をメモ4.次回はメモを見ながらやる5.継続的に改善するスパイラル(ループ)をつくる
心理学・脳科学の統合ロジック(悪循環モデル)
ではなぜ、人は同じミスを繰り返すのでしょうか。精神論や人格批判ではなく、心理学・脳科学の7つの要素から整理しました。各要素を別々の概念としてではなく、連鎖して悪循環を形成するものとして捉えると、全体像が見えてきます。
【心理学・脳科学の統合ロジック(悪循環モデル)】
① 失敗を指摘されると感情的な否定・自己防衛本能が働く。
② 冷静な原因分析ができず、認知バイアスで誤診断。
③ 原因を正確に特定できないため、脳が学習機能の誤作動を起こす。
④ さらに、自分はわかっている、次は大丈夫というという過信や錯覚(ポジティブイリュージョン)が事態を悪化させる。
⑤ 結果、現状維持バイアスによって行動は変わらず、同じやり方が繰り返される。
⑥ メモをつくっても、メモを見直す習慣がない。ひどい場合はメモの存在自体を覚えていないという記憶と学習の限界。
⑦ これらすべてを組織・環境要因が強化し定着化する。
ミスが繰り返される元凶 - 7要素の連携
解決案を説明する前に、先の悪循環モデルの7要素を、本コラムの文脈にそって詳しく解説します。
①ミスに対する否定・自己防衛本能
人間の脳は、ミスの指摘を「自分への攻撃」として無意識に否定しようとします。理性的な判断を担う前頭前野の働きが鈍る、「感情のハイジャック」状態です。ミスを指摘されると、人の脳は自己防衛のために理性的に考えられない状態に陥ってしまう。これが悪循環の出発点です。
②認知バイアスとヒューリスティック
防衛モードに入った脳は、正確な原因分析ではなく「自分を守る説明」を無意識に選びます。複雑な判断を経験や先入観による省エネ思考(ヒューリスティック)で処理しがちで、そこに判断の偏り=認知バイアスが生まれます。失敗を環境や他人のせいにする「自己奉仕バイアス」が典型です。正確な自己反省は、構造的に阻害されているのです。
③脳の学習機能の誤作動(ドーパミンの欠如)
原因分析がずれると、脳の学習メカニズムがうまく働きません。脳は「予測」と「結果」のズレの大きさに応じてドーパミンを放出し、その量が学習の強さを決めます。原因を誤診断するとミスを正しく認識しないためドーパミンが不足し、脳はミスを強く記憶することができません。反省したつもりでも、脳は何も学習していない。これが「メモを取っても身につかない」の正体です。
④ポジティブイリュージョン
学習しなければならないという脳の信号が弱いまま時間が経つと、人は自分の理解度を過大評価し始めます。「自分は大丈夫」という過信です(ポジティブイリュージョン)。理解が浅い人ほど自分の理解不足に気づけない、という皮肉な現象も重なります(ダニング=クルーガー効果)。本人は「もうわかった」つもりでも、実は「わかっていない」錯覚である可能性が高いのです。
⑤現状維持バイアスと習慣化
過信によって行動修正の必要性を感じなくなると、脳は最も効率のよい選択、つまり「いつもどおりのやり方」に戻ります(現状維持バイアス)。習慣は意志の力(前頭前野)ではなく、より本能的な脳の回路が支配しているため、余裕のない状況では、頭で分かっていたはずの「正しいやり方」よりも古い習慣が勝ってしまうのです。
⑥記憶と学習の限界
仮にメモを取っていても、それだけでは不十分です。メモを見直す習慣がないので効果がない(参照習慣の欠如)。ひどい場合はメモの存在自体を覚えていない(記憶と学習の限界)。人は学習した内容の70%を1日で忘れてしまうことはよく知られています(忘却曲線)。単に読み返すよりも、自分で思い出そうとする行為そのものが記憶を強めるとも言われます。「1回書いて満足する」のではなく、時間を空けて繰り返し思い出す習慣がなければ、学びは失われていきます。
⑦組織・環境的要因
①〜⑥の心理メカニズムは、個人の意志だけでなく組織の空気に強く左右されます。ミスを申告しても罰せられないという安心感(心理的安全性)がある組織ほど、円滑な原因共有と学習が進みます。逆に、多くのミスは複数の組織的な欠陥が偶然重なって発生するとも指摘されます。個人を罰する文化では、①の自己防衛が常態化し、悪循環全体が定着・強化されてしまいます。
「正のスパイラル」を回す新フレームワークの提案
このように、人がミスを繰り返すのは、単純に忘れるからではありません。脳の本来の機能に従い、自分の間違いを素直に認めず、いつものやり方に戻ってしまうからです。
そこで、実務ですぐに実践できる再現性の高い仕組みを、脳科学・心理学に沿ったフリクレア独自の新しい概念として「TRIP(トリップ)ループ」というフレームワークに落とし込みました。TRIPループとは、Trigger・Reduce・Impress・Progressの頭文字をとったものです。
このループは、脳の負担を減らし、自然とミスを減らす行動ができるように整理しています。それぞれについて要点を説明します。
[Trigger](メモを見る仕掛け)作業の動線上でメモを必ず見るように工夫する。「メモを見直そう」と意識に頼るのではなく、作業を始める時に自然に目に入るように見える化する。
[Reduce](認知負荷の軽減)認知負荷を軽減しチェックするだけで作業ができるようにする。文章だけのメモは脳の省エネ本能が「読むのが面倒」と拒むので、頭を使わずチェックできる項目レベルまで因数分解・単純化する。
[Impress](脳への記憶定着)チェックを入れるたびに小さな達成感を脳に与え、記憶への定着を図る。ミスなくやり遂げた成功体験が脳の学習回路を刺激し、記憶への定着を促す。
[Progress](仕組み化と改善)周囲の意見も取り入れながら、仕組みを更新し続ける。チェックリストやメモは作って終わりではなく、より楽に確実にできる形に進化させる。
これにより、「ミスをしないようにする」という精神論から脱却し、誰でも再現可能な正のスパイラルを回すことができるようになります。
おわりに ─ ミスの教訓を次に活かす解決原則
人が同じミスを繰り返すのは、能力ややる気の不足ではなく、脳の基本構造のまま、曖昧な記憶や精神論に頼って作業しているからです。これを本人の能力のせいと放っておけば、過去の失敗から学べず同じパターンを繰り返します。本人だけでなく周囲もストレスを感じ、時間を浪費する状態を生み出し、生産性にも悪影響を及ぼします。
人が同じミスを繰り返すのは、そのことを忘れたからではありません。失敗から得た教訓を次回に活かせるような仕組みにできていないからです。
こうとも言い換えられます。
失敗した経験は言語化されなければ無駄になる。言語化されても、行動が変わらなければ意味がない。行動が変わり再現できるようになってはじめて、経験は活かされ本人の力になる。
口に出して覚えやすいように、解決原則を3つにまとめました。
1.記憶に頼るな。メモを見える化せよ。
2.精神論に頼るな。間違えない仕組みをつくれ。
3.口だけの反省に頼るな。次の行動で示せ。
いかがでしたでしょうか。今回のテーマは、細かい実務的な「ミス防止論」を超えた本質的な人財育成論につながり、組織の業務カイゼンにまで発展しました。
最後に自分自身にも問いかけたいと思います。“自分は同じパターンを繰り返していないか? 失敗から正しい学びを得て、仕組みにまで昇華できているか?”
— 次回予告 & シリーズ概要 —
本コラムは「AIとの対話」シリーズ第6回です。次回は「自己模倣のワナ」をテーマとしてお届けしたいと考えています。
※「AIとの対話」シリーズは、まず自分の仮説を複数の生成AIに投げかけて、AIと対話を繰り返し、その中で本質に近いと思われるものを自分の言葉でまとめ直し再編集したものです。
「AIとの対話」で取り上げるテーマはビジネスと直接関係するわけではありませんが、弊社が提供している見える化AIの導入や活用成功の基礎をなす思考法として考えています。
見える化AIについては以下のサイトで紹介していますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 見える化したプロセスをAIを活用して人財育成支援を行います
今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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(株)フリクレア 代表取締役
山田和裕
(2026年08月27日)





