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コラム

ジョブ型雇用を成功させるために職務定義書をしっかりつくる

 

ジョブ型雇用は失敗すると言ったものの

 

前回のコラム(ポスト成果主義 ― ジョブ型雇用にだまされるな)ではジョブ型雇用(“ジョブ型”)に関して辛口の意見を書きましたが、会社の上の方からの指示でジョブ型導入を検討しければならずに困っている人もいると思います。そこで今回のコラムでは、それでもジョブ型を導入しなければならない方のために、その対応策をご紹介します。

 

ジョブ型にプロセス主義®の要素を取り入れる

 

ジョブ型を何となく胡散臭いと感じながらも、流れに乗り指示に素直に従うことも、組織の中で生きていく上で身につけなければならないビジネスパーソンの処世術です。ただ、前回指摘したように、ジョブ型は失敗する可能性が高いです。指示に従うだけで失敗しては元も子もないので、この機会を利用してひと工夫しましょう。ここはプロセス主義®の要素を取り入れ、業績改善に貢献できる本質的な人事変革のチャンスと前向きにとらえるのもひとつの考え方です。

そもそもジョブ型とプロセス主義®は相反するものではなく、プロセス主義®の考え方を取り入れることにより、本格的なジョブ型の職務定義書をつくることが可能になります

 

名前を変えただけのジョブ型雇用にご用心

 

ただし、名前を変えただけで従来の評価制度と中身の変わらないニセモノのジョブ型が出回っているようですのでご注意ください。ジョブ型の実態を調査してジョブ型のサンプルシートを分析したり、ジョブ型雇用の導入支援と銘打った書籍にも何冊か目を通してみましたが正直がっかりしました。これまでの成果主義や職務制度の設計方法とほぼ同じで、焼き直しにすぎないのです。

 

「すでに機能していない古い評価制度を、名前を変えるだけでまた仕事のネタにしようとするとは、人事のプロとして恥ずかしくないのか。これでは失敗パターンをなぞるだけで何の改善も望めない。このままではまずい・・・」。人事関係者として良心がとがめますので、従来の評価制度においてないがしろにされていた「職務定義書」をしっかりつくるという視点を中心に、ジョブ型雇用を成功させるための‶使える職務定義書〟の作成ポイントを解説します。

 

使える職務定義書とは

 

 使える職務定義書とは、業績改善 = 成果を担保する具体的なやり方(プロセス)を明記した本格的なジョブディスクリプション(以下‶使える職務定義書〟のことです。使える職務定義書は、人事評価のためだけで実際のビジネスの役に立たない、数行程度のキーワードを並べただけの薄っぺらな職務定義書とはまったく異なる別物です。

職務ごとに果たすべき役割を具体的に‶標準プロセス〟で明確に定義して、現場で人財育成、業績改善のために本当に使える職務定義書やコンピテンシーモデルを作成します。

このように職務定義書をしっかり整備した上で、ジョブ型を導入するのであれば、それだけでは十分とはいえませんが、成功に一歩近づくことができます

 

プロセスの見える化が先、職務定義書の作成は後

 

使える職務定義書の作成は、①できる社員の選定 ②プロセスの見える化 ③職務定義書の作成という3つのステップで行います。

 

ここで強調しておきたいポイントは、「まずプロセスの見える化を行う。人事評価用の職務定義書の作成はあと」という点です

新しい人事評価を導入するにせよ、職務定義書をつくるにせよ、本来は職務ごとに求められる成果を出しやすい仕事のやり方、これまで属人的なやり方に任されていたそもそもの仕事の進め方を明らかにしなければなりません。単に人事制度のためだけの使えない職務定義書をつくっても意味がないのです。使えない職務定義書をベースにした雇用や評価制度がうまく機能しないのは、これまでの職務制度や成果主義で例を見れば明らかです。

 

ところがここにあまりスポットが当たらないまま、何となく精神論と非科学的なマネジメント(属人的なやり方)でやってきて、それでこれまではなんとか回ってきました。しかしコロナ禍でこのやり方の限界が露呈してしまっているのです。

ですから、この機会に本来もっと前にやっておくべきだった「職務の具体的な内容とあり方」にしっかりと向き合わないと、否定はできないものの抽象的で実際どうやればよいかわからない使えない内容になってしまうのです。

 

使える職務定義書のつくり方

 

重要な点なので「職務定義書をつくる前に、見える化が先である」ということを強調しましたが、職務定義の作り方に戻り3つのステップにそって説明していきましょう。

 

<ステップ①> できる社員のやり方を標準化

まず「この人のプロセスであれば問題ないだろう」と誰もが認める「できる役員・部長クラスのキーマン」+「現役の実務に詳しい人」を選びます。

特に、「できる役員・部長クラスのキーマン」が重要です。営業であればかつてトップセールスで、今はその業績が認められて営業部門の責任者を務めている人です。マネジメント視点を持っていることが重要なので、現役である必要はありません。

人選には十分注意してください!しっかりとした実績があり、かつ、科学的なマネジメント方に理解がある人が適任です。間違っても「実績は今一つだが、時間があるので、代役で〇〇さんにやってもらおう」というような、暇な人を充てる中途半端な人選は絶対やめてください。

 

<ステップ②> プロセスの見える化

「できる社員」にヒアリングを行います。成果を効率的にあげるために実際どういう仕事のやり方をしているのかを詳しく具体的に聴き出して、対象となる職務のプロセスを見える化(棚卸・標準化・資料化・共有化)します。言葉をかえると、営業であれば、勝ちパターンをしっかり「標準化・見える化」して、成果と職務の明確化を行います。

 

余談ですが、フリクレアでは職務ではなく“業務タイプ”という言葉を使っています。同じ職務でも違う内容がある、例えば営業でも直接販売と代理店販売ではやること(プロセス)が異なるためです。

 

<ステップ③> 使える職務定義書をつくる

整理した標準プロセスを〝見える化ツール〟という資料にまとめて、「人財育成の基本の型」をつくります。人財が成長しないと業績の継続的向上は望めない、人財育成とセットでなければジョブ型も機能しない、という考え方がベースにあります。

そして、見える化ツールを活用して、連携する人事評価設計と照らし合わせながら適宜修正し「使える職務定義書」を作成します。

 

見える化ツールが職務定義書のもとになる

 

ここで、職務定義書のもとにある〝見える化ツール〟について補足します。見える化ツールは仕事の全体像を1枚のシートで見える化する〝プロセスシート〟と、その詳細ノウハウをまとめた〝標準プロセスの手引き〟で構成されます。

 

(図1) 見える化ツールのサンプル (左がプロセスシート|右が標準プロセスの手引き)

ジョブ型雇用を成功させるために職務定義書をしっかりつくる

 

見える化ツールは「職務定義書」として使えるだけでなく、「人財育成の基本の型」、すなわち研修やOJTなどの人財育成のベースとなります。また、組織内で仕事を円滑に進めるための「共通言語」の役割も果たします。やることをプロセスで因数分解して示すことで、強み・課題・改善点などが具体的に浮き彫りになるため、「課題解決のための羅針盤」にもなります。

 

営業であれば、「営業の勝ちパターン」「営業の虎の巻」にもなります。さらに、営業支援システムなどを活用する場合、ITシステムというハードに、その会社の魂を入れる「システム設計のソフト」としても活用できるのです。

 

使える職務定義書をもとにジョブ型評価制度を設計

 

せっかく使える職務定義書を作成しても、連携する人事評価の設計がマッチしたものでなければ何も変わりません。その人が「ジョブ(職務)」にあった働きができるかどうかは、使える職務定義書で規定した具体的な標準プロセスが行えるかどうかで判断します。

 

忘れがちですが人事評価には社員の成長支援という役割があるので、人財育成を通した業績改善のためにプロセスの実践を促すわけですが、「職務定義書に書いてあるジョブやプロセスがしっかりできるようになってください」と言っても、それだけでは現場は動きません。その徹底を人事評価でメリットを与えながら支えなければなりません。

 

ジョブ型雇用を成功させるためには「プロセス評価」がポイントになる

 

ジョブ型の評価制度を成功させる上で核になる考え方が、前回のコラムで紹介したプロセス見える化と人事評価をドッキングさせたプロセス主義®〟*です。「プロセスの見える化」で成果を担保するプロセスをあきらかにし「人財育成」を行う  ——  人財育成の結果として「業績改善」がついてくる  ——  そして、職務ごとに注力すべきこと(= プロセス)がちゃんとできているかどうかを「人事評価」で支える  ——  という考え方です。その中でも特に「プロセス評価」がポイントになります。

 

*プロセス主義®の関連サイト:ポスト成果主義 ― ジョブ型雇用にだまされるな; 成果主義からプロセス主義®

 

プロセス評価を行うためには、評価されるべきプロセスを明確にする必要があります。そこで、役職ごとに果たすべき役割をできる社員の行動パターンとして、標準プロセスで具体的にわかりやすく示した〝使える職務定義書(進化したコンピテンシーモデル**)〟 を構築するわけです。

評価するプロセスがはっきり定義されていない従来型の〝抽象的なプロセス評価〟ではなく、標準プロセスを明確な評価対象とすることにより、現場で使えて業績改善にもつながる〝進化したプロセス評価®を実現するベースとなるのです

 

**「コンピテンシーモデル」は人事マネジメントで使われる言葉ですが、その定義は「ハイパフォーマーに求められる行動特性をモデル化したもの」です。営業的にわかりやすくいうと、できる営業が結果を出すためにやっている工夫やノウハウのことです。

 

進化したプロセス評価®の3つの特徴

 

〝進化したプロセス評価®という特徴的な言葉が出てきましたので解説します。コロナの問題が発生する前から、給与原資のコントロールやリストラという後ろ向きの目的ではなく、業績に貢献するための前向きな人事評価制度として、プロセス評価を進化させる動きがありました。

プロセス評価は今や、プロセスの見える化とプロセス評価を融合させた新しいステージに入ってきているのです。進化したプロセス評価®の特徴は以下の図に示す3点です:

 

①結果を担保する(成果や業務効率の改善につながる)具体的なノウハウを「できる社員」からヒアリングして、会社や組織側が“標準プロセス”として整理し、共有しやすいように「見える化」する。

②さらに、標準プロセスを“共通言語“と“基本の型”として人財育成に活かし、継続的な業績改善につなげる(〝進化したコンピテンシーモデル〟)。

③結果の成果だけでなく、まだ結果の出ていない標準プロセスへの取り組みを人事評価にリンクさせる。

 

(図2)進化したプロセス評価®の3つの特徴

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このようにジョブ型とプロセス主義®に基づく進化したプロセス評価は非常にマッチングがよいのです。ジョブ型を成功させるためにぜひ注目してもらいたいおすすめの人事評価制度になります。進化したプロセス評価®については、また回を改めて解説したいと考えています。

参考サイトはコチラ → 進化したプロセス評価®とは

 

 

今回も最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

“使える職務定義書”にご興味のある方、ジョブ型雇用を導入したいが検討で悩まれている方は こちらからご連絡ください。

 

⇨ コラムへのご意見やご感想は info@flecrea.com 

 

 

()フリクレア 代表取締役

山田和裕


(2021年07月26日)

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